快適な生活とひきかえに私たちはどのような生きる術を失ってきたのか。家と仕事場を往復する日常の中で、どんな感性が麻痺(まひ)しているのか。若き冒険家であり旅人である石川さんの本を読むと、普段気づかない、定住者としての自分の弱さや鈍さが見えてくる。
たとえば、カヌー。かつて太平洋の島々の住民は、海図もコンパスも使わずに長距離航海する伝統的な技術をもっていた。それを学ぼうと著者はハワイに、沖縄にと出かける。あるいは、マイナス40度にもなる極地で手の感覚をなくしながらもどうやって歩き続けるか。
「実際に体験し身体に記憶を刻みつけることは、自然に対する人間の驕(おご)りを取り払う最も明快な方法ではないか」と著者は言う。しかし、そのみずみずしい文章が、その場にいたものにしかわからない感覚を、読者にも伝えてくれる。
生きる上での知恵とは何か。そんなことを考えるために旅に出てみたくなるような本である。