郵政解散から自民党大勝に至る流れが打撃を与えたのは、郵政法案反対派や民主党だけでない。日本政治を観察してきた政治学者の大半も、解散時には小泉自民党の大勝を予想できず、衝撃を受けることになった。選挙民の意識や政治的利害の構造に基づく従来の政治分析手法では十分に説明できない現象が、今回起きたのである。それではどう考えればよいのか。「劇場型政治」という流行語も分析概念としては弱い。
本書は、政治コミュニケーションを専攻する著者が、政治における言葉の力に着目する「言葉政治」の観点から小泉政治を読み解こうとする著作である。政治、ことに民主政治において雄弁術が不可欠の要素であることは古代ギリシャの例からも明らかだが、戦後日本では政治は利益分配を中心に営まれ、せいぜいパフォーマンスの効果が時に語られる程度で、政治的武器としての言葉の力は軽視されてきた。「抵抗勢力」という言葉によって野党の攻勢も党内の反対も封じ込めた小泉首相は、「言葉政治」の実行者として日本政治に新機軸を示したという分析は説得的である。
著者は、小泉流の「言葉政治」は小泉以降も引き継がれるだろうと見る。なぜなら、経済成長の果実を分配することで政治権力を生み出した田中角栄流の「利益分配型政治」はこれからの日本では有効性を低下させ、言葉という資源を操ることで、増大する負担の受け入れをいかに国民に納得させるかという「不利益分配」こそが日本政治の主要な課題となることが見込まれるからである。
率直に言って戦後の首相の演説などを中心に「言葉政治」への関心、巧拙といった観点から評価している前半部はさほど目新しい議論を提示していない。また「言葉政治」という概念は興味深いが、その巧拙を決めるのは何かといった点について更なる掘り下げも望まれる。しかし、福祉国家における利益政治を前提とした政治分析に対して、言葉やシンボル、メディアに注目する本書は、新たな政治分析の手法に道を開く有力な手がかりを提供していると言えよう。