中国の古詩には左遷中の作者が残した秀作が少なくないが、本書が取り上げる現代の旧体詩の作者も1人を例外とすれば、いずれも政治運動の荒波をかぶって迫害された革命家、政治家、教授、作家、翻訳家といった知識人である。
彼らは公的な表現の場を奪われたがゆえに、わざわざ伝統的な定型詩詞の形を借り、表現や典拠に細心の注意をはらいつつ政治的受難の境涯を嘆じ、権力への批判や恨みを吐露した。
中国知識人の古典に借りた修辞術は伝統的なワザであり、その注釈は至難である。それを中国文学史と思想史のすぐれた研究家である著者が、深く読み込んだ点が本書の魅力だろう。
ただ1人の例外とは毛沢東だ。詩人としての資質を持つ政治家ではあるが、文芸思想論争を政治闘争に切り替え、多くの文学者に冤罪の帽子をかぶせた責任は免れまい。その典型例ともいえる50年代の「反革命事件」の主人公・胡風の作品の多くは獄中詩である。