吉田茂については既に読み切れないほどの著作が存在するが、90年近い波乱に満ちた生涯故に、本格的な評伝は大部なものが多い。その点、吉田の生涯をコンパクトに、最近の研究も踏まえてバランスよく描いているのが本書の特徴である。
改めて感じるのは、外交官として活動した前半生から首相となった後半生まで、吉田の生涯は日本の命運と深く結びついていたという事実である。尊皇と開国の気風とが入り交じった明治初期に生を受けた吉田は、戦前と戦後を通じて日本の国家的栄光と西洋、特に英米との協調を二つながらに実現する道を探り続けた。その首尾一貫性こそ吉田の真骨頂であった。
しかし本書からは、アジアとのつき合いは吉田にとって終始苦手な分野だったという印象を受ける。各国が自尊心を守りつつ、対等に協力できるアジアは作りうるのか。吉田が答えられなかった問いに今の我々は直面しているのかも知れない。