この本を読んで感じる心地よさは、一体どこからくるのだろうか。読み進めるうちに、ハッとする言葉に何度も出会い、線を引く。その個所を読み返すたびに、何かを刺激されつつ、心と身体が緊張と弛緩(しかん)を行きつ戻りつして、じんわりと心地よさへと向かっていく。
とはいえ、癒やし系の本などではない。本書は、一九七〇年代のウーマンリブ運動、ぐるーぷ「闘うおんな」のリーダーとして知られた田中美津のインタビューや対談、講演記録などを集めた一冊であり、それらを通して、過去と現在と未来が織りなす「田中美津という生き方」を描き出す。その生き方が、「かけがえのない、大したことのない私を生きる」だ。
では、どんな生き方か。リブ運動の初期に取材を受けたときの逸話。年齢を聞かれて実際より一つ若く申告した二十七歳の著者。それを「年を一歳ごまかす『私』もマル」「年なんて気にしないでやりたいことをやって生きようとする『私』もマル。(中略)その両方の自分を生きることが、ここにいる女として生きることなんだ」と受け入れる。運動も、そこから始まる。だから、マルかバツかの硬い枠でしか考えない運動は、枠をはみ出す「私」を受け入れないだけに、つらくなる。
抑圧された人びとがいることに怒りを感じる「私」と、シッポまでアンコの入った鯛(たい)焼きをもらって幸せな気分になる「私」。真面目(まじめ)も不真面目も、強さも弱さも、全部ひっくるめて「かけがえのない、大したことのない私」である。
幼児期の性的虐待の記憶。リブ運動。さらにメキシコに渡り一児をもうけて帰国。その後二十年以上にわたり鍼灸(しんきゅう)師として、患者さんたちの心と身体の病に向き合う。「せっかく病気になったんだから」とそれまでの生き方を見直そう。そんな考えが「私」を生きることにもつながる。
鋭い問題提起が随所にありながら、読者を追い込まない。読み終えたとき、眉間(みけん)のしわが少しでも伸びていたら、その「私」から何かが始まるだろう。あなたが女でも、そして男でも。