あとがきで、著者は、昨年春のイギリスでの在外研究時の経験をもとに本書を書いたとある。実は評者も、衆議院選挙での小泉圧勝の余韻を十分見たあとで、同国での在外研究生活を始めた。政治学の専門家ならずとも、大陸の西と東に位置する二つの島国の首相の比較に興味が行くのは、英国滞在中だからだという理由だけではない。二つの国のリーダーとその政策がもたらす社会の変化を比べることで、日本だけでは見えてこない問題点が浮かび上がる。
本書は、書名の通りブレアの時代が、どのような政治的、社会的背景のもとで登場し、イギリス社会を変えていったのかを分析しながら、ニューレーバー(新しい労働党)が掲げる「第三の道」という政治理念の可能性と限界を明らかにしようとするものである。
はたしてブレアは、市場主義を一層進める新自由主義者なのか。それとも、その修正を図り、立ち行かなくなった福祉国家の再生を目指す改革者なのか。
外交面なら、イラク戦争に見られるように、ブッシュの追随者なのか、それとも、懐に入ってアメリカの暴走をとどめるブレーキ役をかっているのか。あるいは国内での「テロとの戦い」は、多民族国家であるイギリス社会にどのような影響を及ぼすのか等々。内政、外交、それぞれ具体的な問題を取り上げながら、単純な二分法では読み解けないブレアの政治とその影響の分析を試みる。
教育政策についても目配りが利く。選挙のスローガンで有名になった「教育、教育、教育」。これは、「完全雇用」の実現から「十全な雇用可能性」への政策転換であり、新たな雇用・福祉政策の一環であった。はたして、社会的弱者を社会に取り込もうとするこうした政策を通じて、格差と貧困の問題はどこまで解決したのか。学校ごとに全国テストの点数が公表される競争主義が持ち込まれたことで、学校はどう変わったのか。
対立軸が見えづらく、「改革」一辺倒の日本の政治を見通すための「他山の石」。それを見事に浮かび上がらせたところに本書の魅力がある。