小さな本だが、大きくあたたかい。主人公の恋愛小説家・キミコが、ときに悪意や暴力に近寄りながらも、様々な人と出会い、やがて、婚姻外で子を産むまでのいきさつが、自然な流れで描かれていく。
小説だ。だがこれは、能(あと)う限りのシンプルな言葉で書かれた、「生命」についてのひとつの思想の本ともいえる。なぜ、ひとが子を産むのか、そこに至るのか、その解答を、わたしはこの一冊から得たように思った。
かつて、著者の父・吉本隆明氏の本を読んだとき、私は、あ、子を産んでみよう、とふと思ったことがあったのだが、そういうふうに後押しされる何かが、娘である著者へと流れ込んでいるのを感じる。特別な親子だという話をしたいのでなく、本書の主題でもある生命のあり方に、そこでも驚き、感慨を深めるのである。
本書に登場する人々は、他者とともによりよく生きるため、実にあれこれ心を働かせるが、とりわけキミコの「賢(さか)しさ」には、心洗われ、心うたれる。その賢しさが、キミコという個を超えて、生命を慈しむ無名の身体の、中心から発していると感じられるから。「イルカ」というのは、その源に住むものの、象徴なのではないだろうか。