ベースボール・マガジン社の社長をつとめる男と、彼の別れた妻、妻が引き取った三人の子ども(障害を持つ兄、聡明(そうめい)な姉、勉強嫌いな妹)。女優でもある男の愛人。男の、現在の妻とその子どもたち。気の強い彼の母親。登場人物をこうして書き出しただけでも、人間関係がどのくらい複雑であるか推測できよう。語り手は勉強嫌いな妹、ミヨコであり、これは著者の自伝的小説である。
なんだかはちゃめちゃである。ミヨコの父と母は離婚したはずであるのに、縁が切れない。娘はしょっちゅう父の会社にいき、父はしょっちゅう彼らの家にやってくる。父の新しい家庭にも、娘二人は招かれて滞在する。母は父の悪口を言いながら、けれどすっぱりと関(かか)わりを断つことをしない。文字通り、死ぬまで。
出版社を興し、東欧文学に興味を持つようになる父の有り様は、終戦から高度成長期を突き進む時代背景と重なり合う。泥臭くて野心的、そして、人間らしい体温がある。
家、というものを思う。そこに定義はない。ここに書かれているのは、時代とともに走った男が、不器用ながら懸命に作り上げた、愛も憎も覆うほど大きなひとつの家のかたちである。