もちろん書き手によるけれど、海外の読者に向けて日本を紹介した本は国内の読者にも有効な場合が少なくない。あうんの呼吸でわかったような気になっている(でも本当はまるでわかっていない)事象が一から解きほぐされることで、霧が晴れるような気分がまま味わえるのだ。
本書でいう裏社会とは、排除されることで漂泊の民となり、社会の周縁に押しやられた人々のこと。第一部で語られるのは中世の賎民(せんみん)に起源を持つ被差別民、明治以降の下層労働者、横山源之助が『日本之下層社会』で描いたような貧困層、そして著者が「どんづまりの街」と呼ぶ現代の山谷や釜ケ崎の住民までを含む「日陰の人々」である。
一方、第二部の主役は「やくざ」である。これには博徒とテキヤの二系列があると著者はいう。江戸の侠客(きょうかく)。明治の義賊。極右思想と結びつき軍との協力関係さえ築いた戦前の「愛国的やくざ」。そして、戦後の政界や財界との結びつきを強めた「黒幕」や三大暴力団の「親分」。
貧窮者とやくざが一冊の中に同居する。そこがこの本のキモというべきだろう。〈社会は「良き」貧者と「悪(あ)しき」貧者、また「おとなしい」放浪者と「手ごわい」放浪者との区別には無関心だった〉と著者は書く。
〈表面上は国家への異議を唱えているようでいて、結局は並列的かつ補完的な国家のコマ割だった〉と断罪されるやくざと、〈最後の偉大な拒絶のヒーロー〉かもしれない物言わぬ貧窮の民。
最終的に下される判断は逆だけれども、そこには確かに連続性が認められるのだ。17世紀から20世紀末までを俯瞰(ふかん)した論証は緻密(ちみつ)で、「へぇへぇへぇ」の連続。
著者のフィリップ・ポンス氏は、04年4月のイラク邦人人質事件の際、人質になった3人の若者を力強く弁護する論評を「ルモンド」紙に載せ日本の世論に鋭い一撃を加えた、あの東京支局長である。とかく「同質性」が強調される日本社会の多様性を浮き彫りにし、〈日本列島は不服従の者たちの住処(すみか)でもある〉ことを示した快著である。
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安永愛訳/Philippe Pons 42年パリ生まれ。「ルモンド」東京支局長。