壮麗な近代首都に急成長した19世紀のパリが舞台だ。二月革命からパリ・コンミューンへの激動期。この都市に帰される〈近代〉誕生の神話を本書は徹底検証する。複雑で怪物のようなパリの都市社会の光と闇を空間や場所と絡めて描く試みは実に新鮮だ。
著者は英国生まれの社会経済地理学者。研究でパリに滞在する間に、この街に魅せられたという。マルクスを引用し、階級的な視点から社会変化の構造を鋭く論じつつ、バルザックにあやかり、迷宮的で万華鏡的なパリの街を遊歩者の立場で感性豊かに描く。
最大の論点は、ナポレオン3世の下でのオスマンによるパリ改造事業とその影響に関する評価だ。
病んだ都市に外科的にメスを入れ、直線街路、公園、象徴空間を生むばかりか、首都の社会・経済的な空間の枠組み再編を実現した。労働者階級を都心から追いやり、ブルジョアの優美な商業・文化空間への転換を画したが、古い環境も実は残った。だがやがて、富裕層と労働者が明確に分かれ住む階級的な隔離が顕著に。華麗なパリからは想像できない劣悪な労働条件や女性の低い地位等、社会の暗部も描かれる。今のパリの実像を深く知るうえでも必読の書だ。