分類すれば、本書はホラー短編小説ということになる。しかし本書を読んでいたときの私は、怖さよりもむしろ、ゆたかさを感じた。
すべての短編の背景に、古来の日本独自の慣習もしくは思想がある。「つむじ風」に登場する夫婦は、そこが元来「辻」と呼ばれた場所だと知らず、友人から借り受けた家へ引っ越してくる。その家で妻は、現実には存在しないはずのものと対峙(たいじ)することになる。
「雨女」には、ト占(ぼくせん)や祭祀(さいし)を生業(なりわい)とする民族の血を受け継いだ女性が登場する。葬式を一手に引き受ける彼らは、千年のあいだ、生まれてくる女の子だけにその能力を伝え続けている。
本書に登場するいくつもの言葉——まれびと、辻、六道、荒魂(あらみたま)、和魂(にぎみたま)——のほとんどを私は知らないが、この短編を読んでいると、ずいぶん昔から知っていたような錯覚を味わう。人がまだ、神を畏(おそ)れ、死を畏れていたときの幾多の習わしが、ひどくなつかしく、ゆたかなものとして感じられる。
おそろしいのは、あの世や霊魂ではなくて、死をも畏れることのなくなった現代の私たち、今の背後に連綿と続く過去をいともたやすく断ち切ってしまう私たちではないか。そんなふうに思わせる小説だった。