■新たな貧困の「日本病」解決へ道示す
公害を「死語」にするな、という書き出しが心を掴(つか)む。1960年代初頭から、色々な圧力や脅迫にも屈せず、公害問題と常に戦ってきた環境経済学者の眼(め)には近頃、政府のみかマスコミや学界における、公害は終わったという認識の後退ばかりが映るのだ。
時代の変化で、環境への関心は著しく高まり、研究者の数も増えた。だが、「環境学栄えて環境亡(ほろ)ぶ」と言わざるを得ない状況だと著者は嘆く。昨年、深刻な状況が明らかになったアスベスト問題は、史上最大の社会的災害になる危険性があるというのに、真剣に取り組もうとする気骨のある若手研究者がいない。そんな危機意識が本書を生んだ。
真の公害、環境問題の解決への道とは何か。それを示すべく著者は、深刻な公害を経験した水俣、四日市等の歴史に再度光をあて、そこから教訓を導く。さらにこれらの地域の完全な再生と社会経済の仕組みの根本的な改革への道として、「維持可能な社会」という考え方を提唱するのだ。
公害に苦しんだ水俣、川崎、水島、尼崎等の地域が、被害救済の要求から一歩進み、公害地域を健康で美しい都市に再生しようと運動を起こしつつあるのは、明るい話題だ。だが現実の日本は、長時間労働と通勤地獄、住宅の貧困、自然や町並みの破壊、アメニティーの欠如、無計画な土地利用等、「維持可能な社会」の実現にはほど遠い。著者はそれを新たな貧困の「日本病」と名づける。小泉内閣の新自由主義による構造改革はそれをさらに悪化させた。
日本でも可能なはずとの思いのもと、海外の画期的な事例が紹介される。イタリアのポー川流域の干拓地の一部を湿地に戻し、地域再生を実現した例。ドイツのフライブルクにおける軍の基地跡地をエコロジカルな住宅街に再生した例等、どれも示唆に富む。
従来のように国家や外来企業に依存せず、地域の資源や知恵を最大限生かした内発的発展に未来の可能性を求めるべきだ。「小さくても輝く自治体」運動のような希望の星もある。21世紀最大の課題、「環境再生」を根本から考え直す上で必読の書だ。
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みやもと・けんいち 30年生まれ。大阪市立大名誉教授。滋賀大名誉教授。