2006年09月03日16時32分のアサヒ・コム
		アサヒ・コムBOOK

メインメニューをとばして、本文エリアへ朝日新聞社からアスパラクラブクラブA&A携帯サービスWeb朝日新聞サイトマップ文字拡大・音声

天気住まい就職・転職BOOK健康愛車教育サイエンスデジタルトラベル囲碁将棋社説コラムショッピングbeどらく

ここから本文エリア現在位置asahi.comトップ >  BOOK > 書評 > 池上冬樹記事

書評

風に舞いあがるビニールシート [著]森絵都

[掲載]2006年07月23日
[評者]池上冬樹(文芸評論家)

■幅広い題材、手堅い作風で直木賞

 直木賞は往々にして、その作家の代表作よりも、どちらかというと小粒な佳作に授与されがちである。第百三十五回の直木賞を受賞した三浦しをんの『まほろ駅前多田便利軒』も、それから本書もその例にもれない。

 ここには短篇(たんぺん)が六作収められている。表題作は、国連難民高等弁務官事務所に入った女性の愛と理想を、元夫の事故死をからめて描いている。国連の難民救済という難しいテーマに挑戦したことと高い社会性が受賞の決め手になったようだが、不安と絶望を象徴する“風に舞いあがるビニールシート”は鮮烈に焼きつくものの、肝心の元夫婦の葛藤(かっとう)とそれぞれの肖像が弱い。残酷な戦場と対照になるはずの二人の生の燃焼、たとえば性描写が生彩を欠いていることも原因のひとつだろう。

 社会的なテーマを正面から見すえたものよりも、むしろサイド・ストーリーにした「犬の散歩」のほうが起伏にとんでいて面白い。表題作のような肩肘(かたひじ)張ったところはなく、犬たちの餌代のために夜はスナックで働く主婦の生活を生き生きと捉(とら)えつつ、「ボランティア」の意味を優しく問いかけていく。終盤の義母との会話がやや臭いけれど、ちょっと泣かせる短篇だ。

 一番の力作は、仏像の修復師たちの生き方を描く「鐘の音」だろう。仏像の官能的な美しさ(それは作中には出てこないが土門拳の写真を見れば一目瞭然<りょうぜん>)に魅せられ、人生を狂わせた男の話である。仏像修復の過程で知る信仰の基盤を揺るがす重大な事実を、師匠との確執を交えてスリリングに物語っている。

 その他では女性社長に振りまわされる女性秘書の意地をしたたかに示す「器を探して」、男たちの絆(きずな)を軽妙に描く「ジェネレーションX」も佳篇といえるだろう。

 シリアスなものからコメディタッチの作品まで、題材も幅広く、作風は実に手堅い。個人的には、児童文学から出発した作家にありがちな常套句(じょうとうく)の無造作な使用、視点の揺れ、唐突な情報提示が気になるが、それは今後の課題だろう。受賞を機にさらなる飛躍を期待したいものだ。

    ◇

 もり・えと 68年生まれ。『リズム』で講談社児童文学新人賞を受けデビュー。


ここから広告です
広告終わり

関連情報

書籍詳細

表紙画像

風に舞いあがるビニールシート

  • 著者: 森 絵都
  • 出版社: 文藝春秋
  • ISBN: 4163249206
  • 価格: ¥ 1,470

別ウインドウで開きますこの本を購入する ヘルプ

書籍詳細

表紙画像

まほろ駅前多田便利軒

  • 著者: 三浦 しをん
  • 出版社: 文藝春秋
  • ISBN: 4163246703
  • 価格: ¥ 1,680

別ウインドウで開きますこの本を購入する ヘルプ

書籍詳細

表紙画像

リズム

  • 著者: 森 絵都
  • 出版社: 講談社
  • ISBN: 4061487280
  • 価格: ¥ 704

別ウインドウで開きますこの本を購入する ヘルプ

powered by amazon.co.jp

 
ここから検索メニュー

検索 使い方

検索メニュー終わり

朝日新聞サービス

ここから広告です
広告終わり

BOOK おすすめレビュー

売れ筋ランキング 一覧

涼宮ハルヒの分裂

BOOK サイトマップ



powered by amazon.co.jp
▲このページのトップに戻る

asahi.comトップ社会スポーツビジネス暮らし政治国際文化・芸能ENGLISHマイタウン

ニュースの詳細は朝日新聞紙面で。» インターネットで購読申し込み
asahi.comに掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
| 朝日新聞社から | サイトポリシー | 個人情報 | 著作権 | リンク| 広告掲載 | お問い合わせ・ヘルプ |
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.