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[掲載]2006年08月06日[評者]池上冬樹(文芸評論家)
村おこしを描くユーモア小説『オロロ畑でつかまえて』(小説すばる新人賞)、若年性アルツハイマーを扱った感動作『明日の記憶』(山本周五郎賞)、ドタバタ調のクライム・コメディ『ママの狙撃銃』でお馴染(なじ)みの荻原浩の初の短篇(たんぺん)集である。何でもこなせる作者だけあってシリアスなサスペンスから馬鹿馬鹿しいホラーまで揃(そろ)っていて、読み応え充分(じゅうぶん)である。
ここには九篇収録されている。少女の視点から戦争のやるせない悲しみをえぐる「お母さまのロシアのスープ」、殺人計画を実行する夫婦の攻防を描く爆笑篇「殺意のレシピ」、十五年前に突然消えてしまった妹の事件の真相を知る「木下闇」もいいが、一番の出来ばえを示すのは「コール」だろう。
これは友人と妻の恋愛を応援せざるをえない“僕”の隠された動機をめぐる話だが、まず何よりも物語がひじょうに注意深く計算されているのがいい。しかも、中盤に大きくネタをわりつつ、なおかつ読者に切ない思いを抱かせて、ラスト一行でほろりとさせるのである。洗練された技巧、ひねりのきいたプロット、確かなテーマ把握、あざやかな着地という、本書におさめられた短篇たちの見本のような傑作だ。
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