■濃くて熱いが、冷静さも
みんながみんなネットでつながり、どこまでが自分の頭で考えたことなのか、自分の力で作ったものなのか、境目がわかりにくくなっている。そんな時代に、自分ひとりで何ができるかを考えぬき、実行する36歳の登山家の手記だ。
濃ゆい人。うっとうしいぐらい存在感がある。なのに彼は欲する。「生命体としてなまなましく生きたい。自分がこの世界に存在していることを感じたい」
うわっ、もう十分存在してるよと思うのだが、他人がいうのでは駄目らしい。自分自身が実感せねば。
彼は山に登る。知床、日高、アルプスへ。装備を持たないサバイバル登山だ。乾燥米を盗んだキタキツネを今度会ったら食ってやると憎み、「岩魚(いわな)の口に引っかかっているのは僕の意志だ」といってかぶりつく。自分のしていることは遊びかと問う冷静さもある。この冷熱の往復運動が、本書を読みごたえのある挑戦的な文明論に仕上げている。
重装備でK2登頂を成し遂げた反動とか、平和な時代の自分探しとか、いろいろ人はいうだろう。私はただこんなやつがいるというだけで愉快だし、嫉妬(しっと)するほど文章がうまいから、彼の本は次も要チェックと思った次第。