■創造の起爆力としての「悪」
神話とは一体何なのだろう。どんな力がそこにあるのか。そして私たちの生き方や人生に、それはどのような働きを及ぼすのか。神話離れの時代に危機感を覚える著者が、「神話」という無尽蔵の井戸にしまわれた意味を、凝縮されたヒントの形で語る。そこから何をどのように汲(く)み上げるか。読者それぞれに挑戦を促す一冊である。
「人間存在のもっとも根源的なことにかかわることが、神話に語られている」と著者は言う。だからそれを読むほうにも、「人間全体の力が要(い)る」と。
紹介されている各国の神話には、荒唐無稽(こうとうむけい)で野性味をもった話が多い。例えばインドネシアには、花の上に生まれた女の子・ハイヌヴェレが、地面に掘られた穴に落とされて死に、その死体を切断して別々の場所に埋めたところ、各部分が様々な芋類(いもるい)になったという神話があるそうだ。ここから著者が導くのは「何か新しいものが生み出されるために死(殺人)が存在しなくてはならない」という生と死の逆説。
子捨て、子殺し、親殺し、密通、姦計(かんけい)、盗みなど、神話には悪の行為が満載だが、その悪が創造の起爆力として働くことも。神話に描かれた象徴的行為には、深遠な智恵が隠されている。