■人間への深い洞察、色ごとで
中国で何度も発禁になった恋愛古典「金瓶梅」に着想をえた時代小説だが、作者は江戸を舞台に自由に物語を紡いでいる。
主人公は、札差業を営む無類の女好きの西門屋慶左衛門。寄ってくる女だけでなく、あちこちの女の噂(うわさ)をきいてはものにすべく奔走する。そんな慶左衛門に見初められたのが、人妻おきん。彼女は亭主を殺して、慶左衛門の妾(めかけ)となるものの、愛人はほかにも沢山(たくさん)いて、冷戦が繰り返される——。
「金瓶梅」だから性描写が多い。慶左衛門の頭の中には女と寝ることしかなく、愛人たちはいかに他の女たちよりも多くの寵愛(ちょうあい)をうけるか策をめぐらし、ときに罠(わな)を仕掛け、ときに殺人も辞さない。どこまでも淫(みだ)らで、放恣(ほうし)で、意地が悪く、とことん欲が深い。それなのに決して不快な印象はなく、むしろ微苦笑を覚えつつ読んでしまうのは、作者が、惑い多き凡夫たちの願望を包容力たっぷりに描いているからだろう。つまり“思う存分に色ごとにふける”ことの愉(たの)しさと卑しさと苦しさを冷静かつ悠々と捉(とら)えているからである。
きわめてポルノ的であるが、同時に人間への洞察に富む優れた笑劇である。ボリュームアップした長篇(ちょうへん)を読みたいものだ。