■悪徳刑事男女の攻防、驚きの結末へ
ここには外面描写を徹底したダシール・ハメットが、鮮烈なサディズムとエロティシズムを追求したハドリー・チェイスが、ギャングたちの心意気を気高く描いたフィルム・ノワールの記憶がこだましている。しかも逢坂剛らしい鮮やかなキャラクター、卓越した技巧、ダイナミックなアクションとともにだ。
主人公は禿富鷹秋(とくとみたかあき)、通称ハゲタカ。渋谷神宮署の生活安全特捜班の警部補だが、実は暴力団も手玉にとる冷酷非情な悪徳刑事だ。そんなハゲタカの前に、女性刑事岩動寿満子(いするぎすまこ)があらわれる。岩動は女ハゲタカともいうべき悪徳刑事で、署から禿鷹を追い出すべく次々に罠(わな)をしかけてくる。
『禿鷹の夜』『無防備都市』『銀弾の森』に続く禿鷹シリーズ第四作で、いきなりクライマックスだ。時間があれば第一作から読んだほうがいいが、単独でも充分(じゅうぶん)に愉(たの)しめる。禿鷹と岩動との対決という前三作とは関係のない物語がメインで、虚々実々の息詰まる攻防が最後まで続き、読み始めたらやめられなくなるからだ。特に圧倒的なのは、関係者一同が対峙(たいじ)する終盤だろう。互いの生存をかけた戦いが、凄(すさ)まじい迫力とともに活写される。息をのむほどの緊迫感にみちていて、まさにシリーズのハイライトだ。
残念ながら本書で禿鷹は退場するが、シリーズは終わらないだろう。作者の代表作の百舌シリーズ(『百舌の叫ぶ夜』『幻の翼』)が公安シリーズに転化したように、禿鷹シリーズも神宮署シリーズに転化していく気がする。そのための布石があちこちにある。
ともかくシリーズなのに、どこから読んでも面白く、小気味いいひねりをきかせて、驚きの結末へと持っていく。小説の視点が曖昧(あいまい)な小説が幅をきかせているが、逢坂剛は厳格に人物の視点を守り、徹底した外面描写で、禿鷹の心理を一切描写しない(唯一エピローグで彼の真意を知ることになる)。洗練されつくしたスタイルで、凄絶(せいぜつ)な暴力と散華を描ききっている。映画に奪われた“活劇”の面白さと昂奮(こうふん)を、久々に小説に呼び戻した傑作シリーズの白眉(はくび)。これぞ最高の犯罪小説だ。
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おうさか・ごう 43年生まれ。『カディスの赤い星』で直木賞と推理作家協会賞。