■社会の重圧笑いとばし、たくましく
現代イランの恋愛・結婚事情を、えぐみのある絵と率直な言葉で、痛快に描いた本である。
昼食会が終わった後、いつもどおり昼寝にいく男性陣。残された女たちは後片付けを終えると、サモワールで沸かしたお茶を飲みながら、「心の換気」と称するおしゃべりに花を咲かせる。陰口や愚痴、告白、涙……。でもこれがまったく陰湿じゃない。自らの手痛い経験までも、すべて激烈な喜劇として、あられもなく、笑い飛ばす。
処女性に重要な価値があり、結婚は親の意向が重視されるなど、女性にとっては重圧の多い国。女たちはその現実に、様々な策を弄(ろう)して抵抗してきたのだ。
ある女性は、家事と亭主の世話にあけくれる「妻」より、「愛人」でいるほうが最高と言い、処女を失ったことを悔やむ女性に「これで好きなだけセックスをしても、誰にもわからないわよ。この下にはメーターなんかついていないのよ!」と自分の下腹部を指差しつつ激励する(なるほどねえ、メーターか)。
また、ある女性は、自分の尻の脂肪を胸にまわして豊胸・痩身(そうしん)の整形手術をしたことを告白し、「でも、あのばかは(夫のこと)、私の胸にキスするたびに、実はお尻にキスしているんだってことを知らないのよ」(どひゃー)。
ちなみに、本の題名は処女膜などを縫い直す意味の隠語。部分刺繍(ししゅう)もあれば全面刺繍もあるとか。「案外たくさんのひとがしてるのよ!」
一座の最年長の婦人は言う。「人生っていうのは……馬の上に乗る時もあれば、馬を背負う時もある」。その「馬」の感触、イラン女性ならずとも、身に覚えがあるはず。
現在、核開発やテロ組織支援などで、危険な強気を誇示するイランだが、一方、本書に見る女たちの報復には一神教の閉鎖的な共同体に、風穴を通す陽気さがある。自国の政治をどう思うか、彼女らに本音を聞いてみたい。
筆のタッチで描かれた絵は、人物の目や皺(しわ)の表情に、生々しい魅力が。漆黒の優(まさ)る独特の絵柄に、わたしはアジア的な懐かしさを覚えた。
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BRODERIES 山岸智子監訳/Marjane SATRAPI 作家。69年イラン生まれパリ在住。原作はフランス語。