■目を見張る都市中間層の生活
ちょっとした「インド・ブーム」である。経済面ではITを中心とした目覚ましい経済成長に注目が集まり、政治面では何かと摩擦が絶えない中国に対するカウンターバランスとしての期待が高まる。最大の魅力は、十一億人口の半分が二十五歳以下という、若い大国である点だろう。
私も話には聞いていたが、本書で描かれるインドの都市中間層の暮らしぶりには目を見張った。欧米風ニュータウンでの夫婦と子供二人の核家族、家事も育児もこなす優しい夫と自立した妻、子供たちは高学歴を目指して受験勉強に勤(いそ)しむ。これが理想のライフスタイルで、家父長的な大家族制は崩壊寸前にある。
エステ、ダイエット、“癒(いや)し”ブーム。半面、人間関係の希薄化が進み、都市部では自殺が急増している。まったくどこの国の話かわからない。
著者によると、人口の約二割がこうした中間・富裕層に属するが、一方で約四億人が極貧に喘(あえ)いでいる。カップルが街頭でキスを交わすデリーから、クルマで一時間ほどの農村に行くと、女たちは家に隠れ、外に出ても顔を覆ったままだ。あまりにも極端な二分化が生まれている。
著者はこうした状況とインド現代史を手際よく紹介しながら、焦点を、年来の関心事である「ヒンドゥー・ナショナリズム」に絞り込んでゆく。ヒンドゥー的なるものを称揚するこの動きは、かたやヒンドゥー過激派によるイスラム教徒虐殺、かたや孤独な都市住民の心の拠(よ)り所(どころ)という硬軟両面で広がり、政治を左右する一大勢力にまでなってきた。問題は、イスラムやパキスタンといった外部の敵を措定する排外志向で、著者から厳しく批判されている。ヒンドゥー・ナショナリストが歴史教科書の書き換えに執心する所も、既視感がある。
激変を遂げつつあるインドの現状を知るには、格好の一冊と言ってよい。ただ、巻末の「多一論的宗教哲学」とマザー・テレサにまつわる記述には、違和感が残る。せっかく積み重ねてきたフィールドワークの重みを、減じてはいまいか。“若書き”の勢い余ったということだろうか。
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なかじま・たけし 75年生まれ。著書に『中村屋のボース』(大佛次郎論壇賞)など。