■ゲイの悩みと人生の幅広さ
著者が「薔薇(ばら)族」を創刊した35年前、同性愛者は異常者扱いされた。その後、ゲイという存在が日本で市民権を得るにあたって、この雑誌が果たした役割は決して小さくない。本書はその35年を回顧した記録であり、異性愛者が読んでも興味は津々として尽きない。
初期の「薔薇族」の大きな主題は、同性愛者の不安、特にゲイの妻帯者の悩みだった。社会的立場のために好きでもない女と結婚するのだから、責められて当然という見方もある。だが、本書のゲイの内心を綴(つづ)った手紙や生々しい事例を読めば、差別の圧力との葛藤(かっとう)に共感を禁じえない。
そうした半面、編集長の「ひとりごと」のコーナーでは、真面目(まじめ)にしたたかに生きるゲイの生活の諸相が紹介されていて、人生って広いなあと改めて深い感慨に誘われる。
なかでも面白いのは、日本一有名な同性愛者、三島由紀夫をめぐってこの雑誌に寄稿されたゲイ的観点からの論述で、ここでは紹介しにくい露骨に下世話な話題も含め、三島の人間性の一面を浮き彫りにしている。先頃完結した決定版全集で三島の真筆と認められた同性愛切腹小説「愛の処刑」も、30年以上前に「薔薇族」に再録され、本書にも全文掲載されている。