■発掘・発見 書評の力を教えてくれる
著者のあとがきに異論がある。エンターテインメント小説の書評はその時々で消費されればそれでいい、“その本を買うかどうか迷っている読者の指針になれば、それで充分(じゅうぶん)だ。あとからこうして一冊の本にまとめなくてもいい”というのだが、これは明らかに新刊を対象とした発言だろう。新古書店やインターネット古書店の増加を考えれば、現代はかつてないほど本が容易に入手できる情況(じょうきょう)にある。新刊だけを視野に入れては困るし、北上次郎ほどの評論家となると活躍が幅広く、読者はフォローできない。書評集をまとめるべきなのである。それは本書を読めばわかる。
ここには1979年の西村寿行の『闇に潜みしは誰ぞ』の文庫解説から、今年の伊坂幸太郎の『重力ピエロ』の文庫解説まで108本収録されている。およそ850枚。しかもミステリ、SF、時代小説、恋愛小説、青春小説、ジュブナイルと守備範囲も広いし、一つひとつのジャンルの歴史が語られ、新たな解釈があるので参考になる。
特に北上次郎の功績として大きいのは新人発掘だろう。児童小説出身の佐藤多佳子、あさのあつこ、森絵都、時代小説の荒山徹、富樫倫太郎など彼に見いだされ、読者に“発見”された新人は数多い。いや、“発見”というなら、評価の定まった作家たちにもいえる。戦後の大衆小説のベスト1と力説する阿佐田哲也の『ドサ健ばくち地獄』などは、ギャンブル小説という従来の見方を覆して、心理小説の傑作として読者の前に鮮やかに提示する。そのように提示されたら読者は読まないわけにはいかなくなる。
そう、北上次郎の書評は煽動(せんどう)だ。その小説が読みたくて仕方がなくなるし、書評を読んでさらに関連作品も読みたくなる。宮本輝の『地の星 流転の海第二部』についての書評をもじるなら、“書評がこれほど力に満ちた世界であることを教えてくれる本はそうあるものではない”のだ。
本が溢(あふ)れるいま、読書の指針として、新たな作家や馴染(なじ)みのないジャンルへの入門書として最適の本だし、小説好きなら必携の本であろう。
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きたがみ・じろう 46年生まれ。文芸評論家。著書に『情痴小説の研究』ほか。