■瑞々しく頑固でやっかいな!
本書は俳優・長塚京三の、二冊目になるエッセイ集である。複雑にして香気高い、瑞々(みずみず)しい文章が並んでいる。稚気と幽(かす)かに触れ合うほどの、頑固なやっかいさが魅力である。
俳優とあえてここに書くのが、不要なことだと思われもする。だが、本書のなかのどの一篇(ぺん)をとっても、著者が俳優であることを忘れさせてくれるものは一つもない。役者であることと人格が、みごとに融合していると思う。いや、融合とはきれいすぎる。生来の人格と職業が、かみつきあいながら、ここに一人の人間を、確かに在らしめたという感触が残る。
様々な場面で、著者は自分を、冷静に解体し吟味する。時にその作業は、幼い頃の自己をあぶりだすが、還暦を過ぎた今現在と、一体どこが違うのか。私の目には同じに見える。七面倒臭くて複雑で、ゆれ動く内面を持った少年。幼年と今が、かくも直列に、激しく繋(つな)がりあっている。奇妙にも胸打たれる点である。
むしろ読み難い文章である。独特の粘りとこらえ方がある。だから私も、「こらえて」読んだ。こらえるというのは我慢ではない。気持ちを溜(た)めながら、ゆっくりということ。稀有(けう)な文章に出会ってうれしい。