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書評

私の老年前夜 [著]長塚京三

[掲載]2006年10月08日
[評者]小池昌代(詩人)

■瑞々しく頑固でやっかいな!

 本書は俳優・長塚京三の、二冊目になるエッセイ集である。複雑にして香気高い、瑞々(みずみず)しい文章が並んでいる。稚気と幽(かす)かに触れ合うほどの、頑固なやっかいさが魅力である。

 俳優とあえてここに書くのが、不要なことだと思われもする。だが、本書のなかのどの一篇(ぺん)をとっても、著者が俳優であることを忘れさせてくれるものは一つもない。役者であることと人格が、みごとに融合していると思う。いや、融合とはきれいすぎる。生来の人格と職業が、かみつきあいながら、ここに一人の人間を、確かに在らしめたという感触が残る。

 様々な場面で、著者は自分を、冷静に解体し吟味する。時にその作業は、幼い頃の自己をあぶりだすが、還暦を過ぎた今現在と、一体どこが違うのか。私の目には同じに見える。七面倒臭くて複雑で、ゆれ動く内面を持った少年。幼年と今が、かくも直列に、激しく繋(つな)がりあっている。奇妙にも胸打たれる点である。

 むしろ読み難い文章である。独特の粘りとこらえ方がある。だから私も、「こらえて」読んだ。こらえるというのは我慢ではない。気持ちを溜(た)めながら、ゆっくりということ。稀有(けう)な文章に出会ってうれしい。


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    書籍詳細

    表紙画像

    私の老年前夜

    • 著者: 長塚 京三
    • 出版社: 筑摩書房
    • ISBN: 4480873538
    • 価格: ¥ 1,680

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