■建物の末路に着目した建築史
風変わりな建築史だ。建築の歴史といえば普通、出来上がる過程を扱い、いかなる考えで、どんな特徴をもつ建物がつくられたかを論ずる。完成後の姿、末路を問うことは稀(まれ)だ。本当は心象風景に結びつく建築のその後こそ重要なのに。
それが不満な著者は、建築にとって最も不吉な崩壊というテーマに注目した。
歴史上、多くの建物が崩壊し、執念で再建された。教会の塔や天井が崩れ落ちた例は枚挙に暇(いとま)がない。地震、嵐、雷の他に、鐘やオルガンの音までも原因になりえたという。よくぞ沢山(たくさん)の例を調べ上げたものだ。崩壊は人間の力を超えた事象でもあり、畏敬(いけい)の念を生んだ。ミサの間、天井が落ちないよう、祈りを捧(ささ)げることもあった。
ピサの斜塔のように、傾いているが故に、世界の人々の人気を集め、その崩壊を巡って賑(にぎ)やかな話題をまく建物もある。
崩壊は危険な由々しきことだが、西欧では同時に一種甘美で夢幻の世界と結びつくこともあったと著者は言う。地震、火事、水害に悩まされ続ける木造文化の日本とは違った美の感覚が育まれたのだ。比較文化論としても興味が尽きないが、一方でなぜこんな不思議な本を書いたのか著者に聞いてみたい気もする。