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書評

けむりの居場所 [編]野坂昭如

[掲載]2006年10月29日
[評者]角田光代(作家)

■無駄に見えて大切な楽しみ

 喫煙者が、ほとんど軽犯罪者のように扱われる昨今に、喫煙をテーマにした本を出版するその心意気がすばらしい。執筆者は、開高健、藤沢周平、赤塚不二夫、田中小実昌と、数え上げればきりがないほどの豪華さである。最初から終わりまでみっちり、煙草(たばこ)、煙草、煙草の話。

 煙草を通して時代が見えてくる。戦前の煙草の銘柄、空襲のただ中に防空壕(ごう)で見た煙草の火、戦後、物資不足のときに拾って歩く他人の吸い殻。数人が「火を貸す」という行為について言及しているのが興味深い。知らない人同士の距離がすっと縮む、緊張と親和の入り交じる瞬間が、それぞれの筆で書かれている。こんな光景は、今はもう見ることができない。

 遠藤周作は煙草について「無駄にみえても、その無駄が人間のうえに大切なような楽しみなのである」と書く。本書はまさに、無駄ながら大切な瞬間を、ていねいに集めてある。仕事や日常からふっと遠くを見遣(みや)るような、ささやかながら貴重な時間を詰め込んだような随筆集である。

 それにしても、かつての文人は喫煙マナーにじつにうるさかった。煙草よりも、格好悪い吸い方のほうが、害だったのである。


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    書籍詳細

    表紙画像

    けむりの居場所

    • 著者:
    • 出版社: 幻戯書房
    • ISBN: 4901998188
    • 価格: ¥ 1,680

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