■社会変動に適応、進化する力
結婚するのは簡単だ。が、そのあとがむずかしい。昔からそう言われてきたけれど、いまはもっとずっと大変だ。ましてや夫婦が子供を無事に育て上げ、終生添い遂げるなど至難の業に見えてくる。だから、世界中で「家族の崩壊」が叫ばれる……。といった通念に、著者は断固として「NO!」を突きつける。
かくも激変する世の中で、家族は驚くべき適応力を示し、新しい様々な形を生み出している。つまり、家族は「進化しつつある」というのだ。著者にそう確信させたのが、19の家族を描き出したこのノンフィクションである。
各々(おのおの)の家族やその複雑な物語を紹介するよりも、彼らが抱えてきた問題を列挙するほうが、読者のイメージを鮮明にするだろう。たとえば、両親の不和、結婚生活のすれ違い、親子の断絶、幼少期のトラウマ、家庭内暴力、精神障害、浮気、失業、離婚、老親の介護、片親の家庭……。どれにもまったく無縁の家族などないはずだ。
しかし、語る側はいかにもそれらしい物語をなぞる通弊に陥りやすい。そこで著者は同じ内容の話を5回から8回もさせ、陳腐で「安全な」ストーリー化を許さなかった。
実のところ、家族をテーマにしたノンフィクションは滅多(めった)に成功しない。本書が稀(まれ)な例外となったのは、700人もの候補の中から19の家族を選び抜き、そのうえで長期間に及ぶ粘着的なインタビューを繰り返して、それぞれの一筋縄ではいかない物語を紡ぎ出した著者の力量による。
ただし、本書に即効的な処方箋(しょほうせん)を望むと当てが外れる。ここには、気の利いた箴言(しんげん)や、スピーチで使える“ちょっといい話”はほとんど出てこない。登場人物がおずおずと、だが腹蔵(ふくぞう)なく自身と家族を語るにつれ、それらがいわば“まるごと”われわれに働きかけてくるのである。
読み始めは、著者の独特な話法や異文化への不慣れから、内容が頭にすんなり入ってこないかもしれない。
願わくば、再読味読していただきたい。いくつかの家族の物語は、必ずあなたに食い込んでくる。
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桐谷知未訳/Po Bronson 米作家。著書に『マネー!マネー!マネー!』など。