■京都と東京 生活感溢れ愉快な二都論
東京的価値観ばかりがのさばる今、逆に和の文化にこだわる京都の価値は高まる一方だ。観光客の数も増え、しかも九割がリピーターという。
東京文化とは異質な京都の魅力の秘密を、本書は独特の繊細で柔軟な観察眼で解き明かす。「負け犬」の言葉で大ブレークした著者だけに、巧みな造語術に随所で笑ってしまう。京都と東京の比較はとかく高尚な文化論になりがち。肩肘(かたひじ)張らない生活感覚溢(あふ)れるこんな愉快な二都論に出会ったのは初めてだ。
京都の特徴は、無論その長い歴史あってのこと。平等で効率中心の分かりやすい東京に対し、京都では、人にも場所にも裏や奥が複雑に存在し、一筋縄ではいかない。だからこそ、著者の言う「お楽しみの重層性」も生まれるのだ。
ウチとソト、外来と地元、仲間と非仲間が区別され、受け入れに巧妙なバリアーがある。その様を著者は絶妙なタッチで描く。象徴的なのは言葉。洗練された京都の言葉は複雑な迷宮で、他所(よそ)者が簡単には中心に入れなくしているという。面倒臭い複雑な贈答術、クラスの存在に裏打ちされた身分相応の精神、店に相応(ふさわ)しい客かどうかを料理人が観(み)るために存在するカウンター文化等、熟達が生む京都の特質を面白く見抜く。だが京都人は閉鎖的ではない。仲間になれば接し方がまるで変わるというのだ。
人と場所への考察は経済の領域まで広がる。京都にはスーパーが少なく、しかも卸売市場とは違う朝市や伝統市場のようなイチバが多いことに着目。地産地消色が強く、マチとイナカが近いのだそうだ。それでいて、京都には「都会性」があるという。だとすれば、21世紀の成熟社会にふさわしいコンパクトシティーのモデルと言えるかも。
古い京都礼賛ばかりでない。オタクの若者が集まるプチ・アキバの存在、濃いめで美味(おい)しい外食文化の発達、東大が明るく開催するミスコンに反対する京大の学生達(たち)など、京都の今が軽妙に語られる。著者は実は東京も大好きだ。東京と京都。違う価値観で動く二つの都を自由に往来するとは最高の贅沢(ぜいたく)者だ。
◇
さかい・じゅんこ 66年生まれ。コラムニスト。著書に『負け犬の遠吠え』など。