■懐古談を超えた取材の成果
親しかった編集者が夭折(ようせつ)してもう八年になるが、いまだにその人のことを思い出さぬ日はない。
広範な読者がつく見込みのない私のような書き手を、なぜそこまで贔屓(ひいき)にしてくれたのか。その答えの一端を本書に見いだした気がする。
漫画家・滝田ゆうの生涯を綴(つづ)ったこの本は、だが、かつての担当編集者による懐古談ではなく、故人の家族や友人知己、仕事仲間の多数に取材をしてまとめあげた、しっかりとした造りの評伝になっている。
戦前の“私娼窟(ししょうくつ)”で育つ少年の世界を描いた傑作『寺島町奇譚(きたん)』が、いかに生まれたか。これが本書の山場だが、晩年、肥満体の着流し姿でテレビの人気者になっても、終生「楽しまない人であった」滝田という故郷喪失者を見守りつづけた著者の視線の“満ち引き”が、本当の読みどころである。
名うての遅筆家にして、度を超した飲酒癖の持ち主だった滝田に始終振り回されながら、必ずしも売れる漫画家ではなかった彼に、どうしてかくも執心したのか。私は、ここにも作者と編集者という、ある意味で異常な人間関係に潜む“魂の相似形”のようなものを感じてしまうのだ。