(1)秋の四重奏(バーバラ・ピム著、小野寺健訳)
(2)小説の読み書き(佐藤正午著)
(3)海に住む少女(ジュール・シュペルヴィエル著、永田千奈訳)
(1)の余韻は思いの外、深い。70年代のロンドンを背景に、定年前後の同僚男女四人が描かれる。恋人でも家族でもない、「同僚」という距離感が新鮮だった。英国的な成熟した関係の真髄(しんずい)は、もしかしたらこの言葉の内にある? もたれあわない冷ややかな距離を縮めることなく堪(た)えて生きる彼ら。感情の荒波を沈め、現実を直視し、個を守り、ぎりぎりまで生きてばたりと死ぬ。その後の空虚は深いけれども、死にさえも謹厳なユーモアが漂う。センチメンタルのかけらもない。
(2)は、文体から読み解く小説案内。考える余白をたっぷり含んだ本書の文体こそ魅力的。旧知の作品が、めりめりと音をたてて新鮮な容貌(ようぼう)で現れいでる。
(3)は、新訳で読む古典。美しい幻想譚(たん)の枠からはみだす、野性的な生命のほとばしり。宇宙の孤独に突き落とされる。シュペルヴィエルって仏教的だ。
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小池昌代 詩集『地上を渡る声』(書肆山田)、書き下ろし小説を含む、本がテーマの本『井戸の底に落ちた星』(みすず書房)を刊行。