■いかに生きるかを熱く論じる人生賛歌
中篇(ちゅうへん)3作と長篇1作が収録された作品集である。39歳の女性が人生の岐路にたつ「20年後の私へ」、有名作家の死を巡って編集者夫婦に亀裂が入る「たとえ真実を知っても彼は」、不倫中の若い女性が答えを見いだす「ダーウィンの法則」、そして5年前に別れた女性との関係を描く長篇「どれくらいの愛情」だ。
いずれも隠された事実を小出しにして主人公の状況を追い、より苦悩を深めていく。白石一文は抜群の語り部だが、本書でも巧妙に物語を運び、人間ドラマを前面に出す。読者は物語の面白さに引きこまれ、人物たちに感情移入して、生きることの困難さに立ち会うことになる。そう、白石はここでも、生きることの意味を一つひとつ問いかけ、問題点を剔出(てきしゅつ)して力強いメッセージを示す。つまり、人生は充分(じゅうぶん)に生きるに値し、人は人を幸せにするためにあり、愛を失うことを決しておそれてはいけないし、絶望は深い愛を知る手だてでもある、と。
そんなふうに紹介すると辛気臭く思われるだろう。帯に「これが2006年の涙です」とあるが、涙腺を刺激する話でもない。作者は読者が抱く欲望にそうのではなく、むしろそわない方向に連れ出して深く心に感じ入らせる。
人物たちがごく普通に「お告げ」「魂」「生まれかわり」「運命」等の言葉を使うので読者を選ぶところがあるが、それは作者が「目に見えないものの確かさ」を意図したからである。「目に見えるもの」がすべてではなく、むしろ目に見えないものの中に大切なものがあることを訴えている(たとえば「20年後の私へ」で語られる“若々しい、自由な心”というくだりの、何と感動的なことか!)。
小説がもつ人生論の側面を、これほど強くうち出す作家も、近年では珍しいだろう。だが昔から文学は、如何(いか)に生きるべきかを熱く論じる書物として大衆の支持を受けてきたのではないか。白石一文の小説はいわば、文学のど真ん中直球である。僕らはストレートに繰り出される数々の箴言(しんげん)にうたれ、人物たちの真摯(しんし)で切実な思いに心を熱くする。忘れがたい人生讃歌(さんか)集だ。
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しらいし・かずふみ 58年福岡県生まれ。作家。著作に『一瞬の光』ほか。