■赤裸々に「依存症からの帰還」
なぜ酒を飲むのか、飲んでいることを忘れたいからだという、「星の王子さま」に登場する問答を幾度も思い浮かべた。語り手の「僕」は酒をやめられず、家族に暴言を吐き、離婚されているのだが、そのことを思いだしては飲み続ける。血を吐き、倒れ、意識を失い、このままでは死ぬと医者に断言されても、飲む。
「僕」が強制的にアルコール依存症のための病棟に入院させられるときは、心底ほっとする。ところがこの病棟にいる人々が、一癖ある人ばかり。特殊な環境のなかで、患者たちの妙に子どもじみた欲求が爆発する様は、情けないやらおかしいやら。病人食の「僕」は、みんなの食べるカレーが食べられないことに心底腹をたてるし、食事係をめぐって、大の大人が「ぶっ殺してやる」と叫ぶほどの喧嘩(けんか)をはじめたりする。軽妙な語り口が、陰惨さなど感じさせず、人の元来持っている滑稽(こっけい)さを浮き上がらせる。
いってはいけない場所は避けて生きる。それが正論だが、人生は正論にはおさまらない。生きることはかくも理不尽である。それでもこの小説が絶望に彩られていないのは、「帰りたい」、そう切望する場所を、理不尽な「僕」が諦(あきら)めることをしないからだろう。