■蔑視と喝采の狭間で輝く
四半世紀ほど前、中世の民衆史が日本でも流行したが、本書の描くヨーロッパの中世像は驚くほど新鮮で奥深い。著者は社会の辺縁にアウトローとして生きた旅芸人に光を当てながら、宗教的な倫理が浸透し現世の欲望を否定したはずの、ヨーロッパの中世キリスト教社会の表向きの顔を、次々に剥(は)がして見せる。
封建時代、日常の重たい秩序や規制に縛られた民衆は、旅芸人の刺激的な演劇、見世物(みせもの)、卑猥(ひわい)な語り、色っぽい踊りから、束(つか)の間の心の高揚、生の喜びを得た。
観客は農民や都市の民衆だけでない。宮廷の王侯貴族も旅芸人を手厚くもてなし、神に仕える聖職者も現世的欲望を抑えられず、司教や大修道院長さえ旅芸人の上演に没頭したという。社会から排斥されつつ、求められる。旅芸人は蔑視(べっし)と喝采の狭間(はざま)に生きた両義的な存在だった。年の市や村の広場、宿屋兼食堂、教会、墓地等、旅芸人の活動の場に著者が拘(こだわ)るのも嬉(うれ)しい。
古代ローマの演劇・見世物との繋(つな)がりと断絶を論じ、中世旅芸人の起源を明かす。宮廷内での多彩な演劇、祝祭の記述を読むと、中世がルネサンスの宮廷文化を先取りしていた様子も分かる。演劇史の見直しを迫る書でもある。
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井本●二ほか訳 ※●は日へんに向