■子供時代の暮らし、間取り図とともに
「三丁目の夕日」の少女版とも言える本書は、女性建築士らが自分の育った家と暮らしを、過去の記憶を紡ぎ出して綴(つづ)った素敵(すてき)な本だ。
北海道から九州まで、小学生の頃住んだ家の話を33人の女性が包み隠さず披瀝(ひれき)。建築のプロの思いがこもる手書きの家の間取り図は、味があって楽しいし、屈託のない子供達(たち)の笑顔の写真も最高。著者達の気取りのない素直な文章は、普段着の暮らしを実によく伝える。どのページからも、懐かしさが込み上げる。
高度成長期に入る前の日本の家の様子を本書はリアルに再現する。物質的豊かさや便利さとは縁遠いが、素朴な生活の中に家族の絆(きずな)、温かさが感じられる。だが家庭のしつけは厳しく、仕置きで物置に閉じ込められることも。少女達はこうして逞(たくま)しく育った。
本書は戦後住宅史の貴重なデータベースでもあるが、実は大半の家が農家、職人の仕事場、または店舗等、生業と結びついていた。子供達は親の生き様を見て、手伝いながら育った。登場する専用住宅といえば、ほとんど転勤族の官舎や社宅なのが面白い。
核家族は少ない。3世代同居が当たり前で子沢山(こだくさん)だ。狭い家に大勢住むから、自分の部屋が持てた喜びは格別だった。玄関や廊下の隅でも、自分の机をもつのが嬉(うれ)しかった。
著者達の記憶に最も強く残るのが、4畳半の茶の間での家族揃(そろ)っての食事、団欒(だんらん)。日本の住まいの原点だ。そして家の外れにある、どこか怖いポットン便所。近代の機能主義が捨て去った不思議な場の力が存在した。お気に入りの五右衛門風呂の話も面白い。
子供達はともかくよく遊んだ。家の押し入れ、庭、路地、原っぱ、境内、田んぼ。どこも遊びの天国だった。コミュニティーなんて言う必要もない程(ほど)、近所づき合いは濃かった。
本書の価値は懐かしさだけではない。家庭や地域の崩壊が叫ばれる今、住まうことの根本を問い直す。便利で快適なだけで、果たしてよいのか。住む人の人生の素晴らしい記憶となるような家づくりをしたい。本書の執筆を通じてそう実感した彼女達の今後の家づくりの実践に期待したい。
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女性建築技術者の会は、76年発足した建築関係の仕事に携わる女性の集まり。