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書評

家のロマンス [著]加藤幸子

[掲載]2007年01月28日
[評者]角田光代(作家)

■世代超え生き残る広大な屋敷の呪力

 この小説の、第一部の語り手は明治生まれのミヤ、第二部の語り手はその孫娘のヨシノである。しかしながら、本書の主人公はだれかと考えると、家、というのがいちばんしっくりくる。婿養子である夫、実の母キクとともに、子どもや住み込みの子守を引き連れてミヤが引っ越してきた、東京郊外にある和洋折衷の広大な屋敷。北原白秋が前住者だったその家は、五百坪の庭を有し、四季ごとに桜や梅が花を咲かせ、柿や枇杷(びわ)が実る。

 七人の子を産んだミヤは、臨終の間際にあって、その屋敷での日々を回想する。幼いうちに亡くなった子がおり、戦争から戻ってきた子がおり、生き残った子どもらは成長して夫や妻を得るが、根づいたように屋敷に住み続ける。管理能力に長(た)けたキクとは異なり、書物を読むことだけが生き甲斐(がい)のミヤは、庭が荒れても、屋敷に住まう家族が仲違(たが)いしても、我関せずの態度を一貫し続ける。年老いていくミヤの姿は、まるで屋敷に取り憑(つ)いた家の精霊のようである。

 臨終の場に駆けつけてきた孫娘ヨシノに、ミヤは自分の思いを託す。ヨシノは、祖母の引き出しから出てきた革表紙のノートに「家」の記憶を書きはじめる。

 祖母がかたくなに守り通した家を、「家の外壁を這(は)いまわるツタみたいな圧力」と感じていたヨシノは、祖母亡きあと膨大な相続税を課された家の衰退を、どこか冷めた視線で眺め続ける。屋敷は時代にのみこまれるように姿を消すが、しかしかつての屋敷が持っていた呪力は、方々へと分散していく家族を、いつまでも捉(とら)えて離さないように見える。

 大正、昭和、平成と、「家」の持つ意味の変換が、一家族の歴史とともに浮かび上がってくる。ブルドーザーの轟音(ごうおん)とともに、今が過去になるそのスピードとともに、かつての家は解体され、人々はその意味を見失いかける。しかし著者は、解体されたその後の人の在りようにこそ「家」の意味を見出(みいだ)す。人が死んでもなお生き残る、「家」の力を描き出す。主人公たる「家」の、それは美しい執念である。

    ◇

 かとう・ゆきこ 36年生まれ、作家。「夢の壁」で芥川賞、『長江』で毎日芸術賞。


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    家のロマンス

    • 著者: 加藤 幸子
    • 出版社: 新潮社
    • 価格: ¥ 1,470

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    書籍詳細

    表紙画像

    長江

    • 著者: 加藤 幸子
    • 出版社: 新潮社
    • 価格: ¥ 1,785

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