■文学の核心さらりと述べる
三十数年前に短篇(たんぺん)集『生のさ中に』『悠蔵が残したこと』に出合って以来、小川国夫を読み返している。言葉はざっくりと切り落とされているのに、世界の表情はつややかで陰影があり、単純化された物語はときに神話的な響きをもつ。いったいどうしたらそのような表現と物語を生み出すことができるのか。それは本書を読めばわかる。
文学への基本姿勢「耳を澄ます」、文章論に大きな影響を受けた「志賀直哉の教え」、芥川龍之介と梶井基次郎の決定的な違い「エトナのエンペドクレス」、梶井の“新しい”魅力にふれる「梶井基次郎再読」、悲劇と喜劇が共存する物語の宝庫=聖書「ヒューマン・バイブル」、自作を解説する「書きたい、見たい、聞きたい」、「川端康成文学賞の選評から」などでさらりと小川文学の核心が述べられているからだ。
そのほかに文人たち(本多秋五、藤枝静男、前登志夫)との交流、身辺雑記、若き日の欧州旅行の回顧が生き生きと時にユーモラスに語られていて愉(たの)しい。
今年八十歳を迎える小川国夫。洒脱(しゃだつ)な語り口のエッセイとはいえ、小川文学の特異さと偉大さにあらためて思い至る好著。また短篇集を読み返さなくては。