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書評

世界屠畜紀行 [著]内澤旬子

[掲載]2007年02月11日
[評者]最相葉月(ノンフィクションライター)

■抜群の行動力で食肉の現場を活写

 イラストルポライター、内澤旬子の単著第二作は世界の屠畜場(とちくじょう)めぐりである。まず企画主旨(しゅし)に意表を突かれた。日本で屠畜を語ると、仏教の殺生戒や穢(けが)れの感覚にいきあたる。だが都会に生まれ育った著者は何も知らなかった。ならば当事者のような顔をして被差別の歴史を語るよりは、屠畜がどんなに興味深い仕事かを視覚的にも知ってもらいたい。撮影禁止の場所も多い中、イラストルポという手法が断然強みとなった。家畜の絶命方法から解体の手順までを、端正な線画とにおいが漂ってきそうなほど活(い)き活(い)きとした文章で伝えている。

 本書が成功した理由はさらに三つある。一つは、屠畜を特定の人々に押しつけ屠畜場に閉じこめてきた国と、生きるための自然の営みと考えてきた国の双方を紹介して、意識の相違を対比させたこと。インドでは今も差別発言が聞こえるが、モンゴルでは屠畜できる人が敬われ、エジプトのように「神様がくれた仕事」と屠畜を誇りにする国もある。文化背景を知らずに動物がかわいそうと批判する動物愛護団体の主張が、いかに的はずれかが浮きぼりになる。

 二つ目は、芝浦屠場から墨田区の革鞣(なめ)しまで、身近な肉の一生を五章も費やして詳述したこと。職人技の数々も、女性や若者の声もどれも興味深く、BSE検査や肉の履歴を知るトレーサビリティがどれほど煩雑な手順で行われるかも明解だ。家畜を殺すのは最初の一瞬にすぎず、その後の作業のほうがずっと複雑で高度。屠畜への忌避感は宗教的な理由より、都市化によって生産の現場が外から見えなくなったことが原因ではないか、という仏教学者・金岡秀郎氏の言葉は説得力をもつ。

 本書をおもしろくした三つ目の理由はなんといっても、猛禽(もうきん)飛び交うゴミ山に踏み入ることも厭(いと)わぬ著者の行動力だ。エジプトの大家族の女性が羊の解体を見守りながら語った言葉は、著者の思いと重なり合う。

 「そう、この場面を子どもたちに見せるのは大事なことなの。私たちは動物を犠牲にして生きているということを忘れがちだから」

    ◇

 うちざわ・じゅんこ 67年生まれ。イラストルポライター。『センセイの書斎』など。


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    書籍詳細

    表紙画像

    世界屠畜紀行

    • 著者: 内沢 旬子
    • 出版社: 解放出版社
    • 価格: ¥ 2,310

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    書籍詳細

    表紙画像

    センセイの書斎—イラストルポ「本」のある仕事場

    • 著者: 内澤 旬子
    • 出版社: 幻戯書房
    • 価格: ¥ 2,310

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