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書評

白い黒人 [著]ネラ・ラーセン

[掲載]2007年02月11日
[評者]巽孝之(慶應大学教授・アメリカ文学)

■「白人」でまかり通る? 出自を意識?

 「白い黒人」と聞けば、アメリカ文学の愛読者なら、かつて1957年にノーマン・メイラーが、かのビート世代の作家(ヒップスター)たちに対し、「ホワイト・ニグロ」なる呼称を献(ささ)げていたことを、たちまち思い出すだろう。それは、ジャズやブルースを貫く黒人の魂に啓発され、中産階級と決別しようとする白人系前衛芸術家の一団を指した。あるいは、18世紀以来、白人がメークして黒人の役柄を演じた「ブラック・フェイス」を連想する向きもあるだろうか。

 だが黒人女性作家ラーセンの本書が発表されたのは1929年、ハーレム・ルネサンスの渦中であり、原題も「パッシング」(Passing)だ。そこでは、混血の果てに肌の色が薄くなり、「白人としてまかりとおる」(passing  for white)ようになった黒人女性たちそれぞれの運命が物語られている。

 舞台は1927年。ニューヨークで幸福な家庭生活を送るアイリーン・レッドフィールドが、実家のあるシカゴに帰郷し、ドレイトン・ホテルのラウンジで、幼なじみの旧友クレア・ケンドリと劇的な再会を遂げるところから、すべては始まる。

 両者はともに、白人とみまごう肌の色の持ち主だが、アイリーンが黒人としての民族的出自をたえず意識するいっぽう、クレアはといえばあっさり民族を捨て自己中心的な利益を優先させ、夫のジョン・ベルーにすら自分に黒人の血が入っていることは告げていない。だからクレアの家のパーティーに招かれたアイリーンは、黒人嫌いのジョンの言動に、はらわたが煮えくりかえる思いをする。

 以後、彼女はクレアとの同性愛的ロマンスを発展させていくが、やがて、自分の夫ブライアンがクレアとのあいだに不義を結んでいることに気づいてからというもの、物語は思わぬ悲劇をもたらす。

 問題は人種や性差ばかりではない。黒人女性が何よりも社会階級をいかに手に入れ、いかに失うものか——この皮肉な構図をめぐるラーセンの思索は、今日、ますますその意義を増している。

    ◇

 PASIING、植野達郎訳/Nella Larsen 作家。1891〜1964。米国・シカゴ生まれ。


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    書籍詳細

    表紙画像

    白い黒人

    • 著者: ネラ ラーセン
    • 出版社: 春風社
    • 価格: ¥ 2,000

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