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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]池上冬樹> 記事 書評 フィッシュストーリー [著]伊坂幸太郎[掲載]2007年03月04日 ■謎解きから普通小説への歩み示す 四つの中・短篇(たんぺん)を収録した作品集である。深夜の動物園で毎晩うつ伏せになっている謎の男の動機をさぐる「動物園のエンジン」、泥棒が行方不明の男を探すうちに古い村の奇妙な風習を知る「サクリファイス」、ある作家の文章がさまざまな人々に影響を与える「フィッシュストーリー」、そして空き巣の男と女たちが野球選手の救済に奔走する「ポテチ」である。 『オーデュボンの祈り』でデビューしてまもないときに発表した「動物園のエンジン」から書き下ろしの「ポテチ」まで、およそ六年間に発表された作品が並ぶが、これを読むと伊坂幸太郎の軌跡がわかる。つまり謎解きから、謎含みの洒脱(しゃだつ)な小説へという流れである。隠されたものを明らかにすることで終わるミステリから、謎を何らかのシンボルにして人生の意味や人間の関係性を探る普通小説への転向といったらいいか。 その代表的なのが、「フィッシュストーリー」と「ポテチ」だろう。特に後者が特徴的だ。自殺未遂騒動からはじまり、不思議な出会いがあり、やがて繋(つな)がりが生まれ、隠された関係性を示しながらも、それぞれの夢や希望を託す方向に物語は収束していく。表題作では謎の作家の文章が象徴的だったが、「ポテチ」では野球という行為が人物の関係性のレベルと欲望の充足の比喩(ひゆ)として機能している。展開はオフビートで語りはクール、それでいて人物たちの精神的距離の踏破という、古き良きメロドラマを温かく描いて読者を十二分にもてなす。実に心憎いではないか。 帯に“伊坂作品を彩る名脇役たちが巻き込まれる、新たな事件の数々”とあるように、ここでは長篇の『ラッシュライフ』『重力ピエロ』ほかに出てきた脇役たちが主人公をつとめる。長篇を読んでいなくても愉(たの)しめるが、長篇ですでに紹介したからか、筆がやや抑えられすぎて、肖像がもうひとつ鮮やかに際立つには至っていない点もある。 とはいえ、作品同士が緩やかにリンクしていく伊坂文学においては優れたサイド・リーダー的側面をもつ。ファンには見逃せない好著だろう。 ◇ いさか・こうたろう 71年生まれ。作家。著作に『重力ピエロ』『砂漠』ほか。
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