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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]陣内秀信> 記事 書評 「世界地図」の誕生—地図は語る [著]応地利明[掲載]2007年03月04日 ■ルネサンスの実証的精神で転機 科学的に作成された正確だが味気ない現代の地図と異なり、様々な思いや意味が込められた古い時代の綺麗(きれい)な地図は我々を魅了する。本書は、人間が世界をどう認識し、地図に描いてきたのか、という大テーマに挑み、世界史を斬新な視点から読み直す。 前半の主役は、東西の代表的な文化圏で作成された中世の世界図だ。どれも文明あるいは宗教独自の世界観を表現し、個性豊かで見て楽しい。 仏教圏からは法隆寺蔵五天竺(てんじく)図が登場する。仏教伝来で世界に目を広げた日本が生んだこの世界図は、仏教の故郷、憧(あこが)れの天竺=インドを中央に大きく表現し、中国をわざと小さく描いている。一方、キリスト教の世界観を表すヘレフォード図は、聖なる方位の東を上にとり、その果てにエデンの園を置く。中央に地上の聖地エルサレムを中心とする世界、下方に現世の人間世界である三つの大陸を描く。未知の世界には荒唐無稽(こうとうむけい)な動物や怪獣の姿がある。 中国は中華思想らしく、宗教観ではなく王権思想がもつ世界観を地図に描く。天子の立つ王都を中心に、華(文明の地)と夷(野蛮の地)を選別して世界を構成するのだ。中世にはイスラムの先進性が際立っていた。シチリアでつくられたイドリースィー図は、自己中心的世界観や宗教的世界観に縛られず、東西の広範囲を地図に自由に描いたのだ。 これら中世の世界図は、どれも思想性や芸術性に富む力作だが、世界観の表明が前面に出過ぎ、世界地図と呼ぶには科学性、実用性に欠けると著者は言う。その全(すべ)てを備えた地図の傑作は、大航海時代のポルトガルが生んだカンティーノ図なのだ。時はルネサンス。古代のプトレマイオス図の英知の復活も背景にあるが、それを大きく革新し、最先端の航海・測量・地図作成の技術で実証的精神に基づく世界地図がここに初めて誕生した。アフリカ、ブラジル等の正確な描写は驚きだ。海洋世界帝国ポルトガルの栄光を賛美する華麗な地図でもある。世界を探索する面白さに加え、イスラムやポルトガルが世界史に果たした偉大な役割を本書は再認識させてくれる。 ◇ おうじ・としあき 38年生まれ。立命館大教授(地域研究)。
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