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書評

氷結の森 [著]熊谷達也

[掲載]2007年03月11日
[評者]池上冬樹(文芸評論家)

■再び銃持つ男の内面周到に

 『相剋(そうこく)の森』『邂逅(かいこう)の森』(史上初の山本賞&直木賞ダブル受賞)に続く「森」シリーズ、マタギ三部作の完結編である。

 舞台は大正年間の樺太とロシア。マタギの柴田矢一郎は日露戦争で優秀な狙撃手として活躍したものの、もはや人を撃つことへの嫌悪感から銃をおき、故郷の秋田を離れて遠くサハリンで漁師や樵(きこり)の仕事を転々としていた。姉の仇(かたき)として義理の弟の辰治が十年以上も矢一郎の命を狙って追跡していたからだ――。

 その二人の雪原での逃亡と追跡、酷寒の間宮海峡の横断、ロシア、中国、日本の諜報(ちょうほう)戦、そしてロシア赤軍のパルチザンとの死闘など盛り沢山(だくさん)な内容である。精神と肉体が軋(きし)みをあげる限界までヒーローを追いつめ、銃をふたたび手にもたざるをえない男の内面をしかと捉(とら)えるあたりも周到だし、実にオーソドックスな(ほとんど海外ミステリなみの)冒険小説である。

 ドラマを作り上げる手腕もたしかだが、注目すべきは、シベリア出兵、尼港事件など歴史的な大事件のただなかで、男が戦争・愛国・民族・家族の意味を探り悩むことだろう。その意味でまさにこれは現代の小説である。悲惨な尼港事件のくだりがとくに胸をうつ。

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