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書評

読み違え源氏物語 [著]清水義範

[掲載]2007年03月25日
[評者]杉山正樹(文芸評論家)

■紫式部も驚く多彩な趣向

 この本を読んで、誰よりも驚くのは紫式部だろう。

 はかなく身まかった夕顔が、じつは生きていたり、末摘花に似たアメリカ娘が、純愛小説のヒロインになったりするのだから。

 『源氏物語』から八人の女性を選んだ短編集だが、どれも原作の意図を生かしながら、まったく別の小説に転化している。しかも、一編ごとにスタイルをかえる凝りようで、「夕顔殺人事件」の対話体から、葵の上の日記、六条御息所のような女優の報復劇、色好みな老女の述懐と、それぞれに趣向が利いている。

 あれほど光源氏の生涯のトラウマとなった藤壺(ふじつぼ)との「実事」も、当の藤壺にとってはまったく異なっていたと寓話(ぐうわ)風に語られる「最も愚かで幸せな后(きさき)の話」や、山荘の管理人が愛情を注いで育てた野草が、ふと気をそらした隙(すき)に枯れる「ムラサキ」は、とりわけ風刺が鋭い。

 ただ、昔からの愛読者には、作者独特の笑いと毒が少し薄れてきたようで心配だ。たしかに今回は相手が悪かった。古来『源氏物語』ほど引用・変奏された名作はなく、さすがの手練(てだ)れもややためらいがあったのだろうか。文体模写(パスティッシュ)とパロディーの達人だけに、現代の新しい笑いの文芸を、と切望してやまないのだが。

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