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書評

弄(もてあそ)ばれるナショナリズム [著]田島英一

[掲載]2007年03月25日
[評者]高原明生(東京大学教授・東アジア政治)

■中国「国民」像に二つの立場

 昨年十月の安倍訪中は、日中が戦略的な共通利益の存在を認め合った点で画期的だった。しかし、洋々たる発展の可能性を持つ日中関係にたれこめる暗雲は、双方のナショナリズムだ。

 本書の特徴は、この分野で古典的なゲルナーのナショナリズム論を中国に応用し、「国民」創成の二つの立場を示したところにある。一つは孔子の教えを核に均質的な国民文化の形成普及を追求した「文明中国」派で、文官である「士」を担い手とし、清朝末期の康有為に代表される。もう一つは「漢人」という「民」の血縁幻想を核にする「血統中国」派で、代表は孫文だという。

 毛沢東の「階級中国」でも出身階級による差別が横行し、「民」の血縁幻想から自由ではなかった。そして改革開放後には「文明中国」的愛国主義教育が行われるが、今や所得格差の拡大に押されて「血統中国」的大衆ナショナリズムがインターネットに噴出している。

 日中のナショナリズムの不毛な争いからどうすれば脱(ぬ)け出せるのか。著者は少数民族問題をも視野に入れ、国民国家の論理を相対化しようとする人々の民際交流を説く。紹介される事例やアネクドートも豊富で、一般読者にも楽しめる力作だ。

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