ここから本文エリア

RSS

現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]香山リカ> 記事

書評

生きさせろ!―難民化する若者たち [著]雨宮処凛

[掲載]2007年04月08日
[評者]香山リカ(精神科医、帝塚山学院大学教授)

■怒って、キレて、言葉にしよう!

 4月になったとたん、テレビから「今日、全国の企業などで入社式が行われ、好景気の影響で新入社員はどこも大幅増です」といった威勢のよい声が聞こえてきた。大学生の就職活動を伝えるリポーターたちも、「今や就職戦線は完全に買い手市場です!」と声のトーンが高い。

 でもそんなのはごく一部の世界のできごとだ、ということを実は多くの人が知っている。フリーターやニートの若者が社会問題となってから、もう長い時間がすぎた。

 とはいえ、そのフリーターやニートの実態を知っている人はそう多くない。いまだに「定職に就かないのは怠けたいからだ」などと思っている人もいる。かく言う私自身も、社会に出ることに対して若者が感じている不安が、彼らを仕事から遠ざける最大要因ではないか、などと考えていた。

 しかし、仕事に就けないことを若者の自己責任だと決めつけないでほしい、と著者は訴える。彼らの多くは、働きたいのに正社員として雇ってもらえない、あるいは精一杯(せいいっぱい)、働いているのにあまりの条件の悪さに生活していけないのである。運良く正社員になると、今度は過労死ギリギリの過酷な労働条件が待っている。人は、社会や企業の側の問題に、あまりに鈍感であった。

 著者が浮き彫りにする若者の実態は、凄(すさ)まじい。前日に指示が来て1日だけの派遣、という単純な仕事を繰り返す。家賃が払えずサラ金に手を出したり、漫画喫茶を転々としたりする。正社員になっても早朝から深夜までの長時間労働で、時給に換算すると700円。心身を壊して生活保護を受給すれば、医療券が制限されて病院にもかかれない……。

 まさに“使い捨て”の犠牲者になっている彼らだが、これまでは声を上げることをしなかった、と著者は言う。「なんかおかしいな」「でも自分のせいかな」と思っているだけの若者たちには「言語化できない苛立(いらだ)ちだけ」が募り、それが、リストカット、時には犯罪にまで暴発している、という。

 しかし、一部の若者たちは自分たちを取り巻く社会のおかしさに気づき、フリーター労組などを作って行動に出始めている。『「ニート」って言うな!』など自己責任論を問い直す本の出版も続いている。著者はその動きを全面的に評価して言う。「私たちは怒っていいのだ。怒って、キレて、言葉にしていけばいい」。一方で、社会を疑うどころか、社会との接続感を求めて「国」という共同体とつながろうと愛国者になって中国を攻撃するフリーターも多いことを指摘し、「弱者がより弱者を憎んでも誰も救われない」と危惧(きぐ)する。

 著者自身、かつては「生きづらい」と自分や周囲に不信を抱き、自殺未遂を繰り返す少女だった。だが、今や若者の内面に寄り添って理解する力と、彼らの視線を内から社会へと向かわせる力をあわせ持つこの世代の“希望の星”へと再生した。自分に希望を仮託するだけではなく、声を上げ、運動を起こす若者が続くことを、著者自身も何より望んでいる。

     ◇

 あまみや・かりん 75年生まれ。作家。著書に『バンギャル ア ゴーゴー』『すごい生き方』『悪の枢軸を訪ねて』など。

ここから広告です

広告終わり

このページのトップに戻る