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書評

中国外交の新思考 [著]王逸舟

[掲載]2007年04月29日
[評者]高原明生(東京大学教授・東アジア政治)

■責任ある「大国」への道筋を提言

 先般、中国の温家宝首相が「氷を融(と)かす旅」と称して訪日した。盛大な拍手で迎えられて国会で演説したほか、朝の公園では太極拳を披露した。大学生とは野球に興じ、「国際電話でお母さんに演説をほめられた」ことを紹介するなど、親しみやすくソフトなイメージを振りまく温首相のテクニックに多くの日本人は引きつけられた。

 しかしその一方で、東シナ海のエネルギー共同開発をめぐる妥協点は未(いま)だに見出(みいだ)せず、経済成長とともに国防費を高い伸び率で増やしていく中国の方針に変更はない。また、3年前には中国の原潜が日本の領海を侵犯したが、その際には明確な謝罪がなく、「遺憾だ」という一言で済まされたことは記憶に新しい。硬軟両面を見せる中国外交の素顔とは、一体どのようなものだろう?

 本書の原題は『全球政治と中国外交』。グローバル化の時代の中国外交が如何(いか)にあるべきかを正面から問う、気合のこもった力作だ。著者は57年生まれ。文革後、大学入試が復活した77年に入学した秀才である。80年代には国内の政治改革について論陣を張り、89年の天安門事件後は開明派の国際政治学者として第一線で活躍している。

 本書では、対話と協力による協調的な安全保障の実現、そして金融やエネルギー、環境なども含めた総合的な安全保障観の重要性が強調される。さらに、グローバル化の条件下で国内政治を安定させるためには、権力に対する監督と制約が必要だと繰り返し主張されるのが印象的だ。

 また、中国外交に対する率直な批判にも目を見開かされる。人口の多さや発展の速さ、また安保理常任理事国であり核保有国であることに鑑(かんが)みれば、国際平和の維持と発展への貢献が不十分だという。著者によれば、中国外交の課題は国内の発展に有利な外部環境の構築と主権の保全のみならず、地域や世界で影響力を発揮し、建設的な役割が果たせる責任ある大国として公認されることなのだ。

 本書でもう一つ印象的な点は、米国の「覇権的な思考と単独行動主義」への警戒の強さだ。米国の圧力に対しては、米中2国間の関係強化と同時に、中国が多国間外交を展開し活動空間を開拓する必要性が訴えられる。

 しかし、ここで一つの問題が浮かび上がる。グローバル化の時代に新しい安全保障観が重要となり、「国際政治=国家間政治」から「世界政治」への発展が語られながら、唯一の超大国は相変わらず権力を追求し、中国が影響力の拡大を求めるのも現実だ。著者は市民共同体的な政治文化の普及に期待するが、その困難さも認めている。だとすると、中国は強大になっても絶対に覇権を求めないと著者が断言する根拠は何なのだろう。

 中国にはリアリストが多く、著者のリベラルな国際政治論は主流だとは言えない。しかし、胡錦濤政権への影響力は決して小さくない。訳者による大胆な再編集により、本書の議論の展開はかなりすっきりした。中国外交の新思考について知ると同時に、日本外交についても深く考えさせられる好著である。

   ◇

 天児慧 青山瑠妙編訳/ワン・イージョウ 57年生まれ。中国社会科学院世界経済・政治研究所副所長。専攻は国際関係理論。

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