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書評

佐藤勝―銀幕の交響楽(シンフォニー) [著]小林淳

[掲載]2007年05月13日
[評者]唐沢俊一(作家)

■戦後の映画を彩った作曲家の軌跡

 この書評欄を担当することになったとき、皮肉屋の友人が私にむかってこう言った。

 「新聞の書評ってのはどうしてああ、分厚くて高い本ばかり扱いたがるのかねえ」

 それが頭にひっかかって、なかなかそういう本を取り上げかねていたのだが、今回、あえてその禁を破って、この『佐藤勝 銀幕の交響楽』を取り上げたい。確かにこの本は分厚い。ハードカバーで380ページ以上ある。しかも値段が3990円(税込み)と高い。しかし、世の中には、分厚いこと、値段が高いことが嬉(うれ)しい本もある。なにしろ佐藤勝の研究書なのだ。

 中学3年のとき、福田純監督の『ゴジラ対メカゴジラ』と、黒澤明監督の『用心棒』を立て続けに観(み)て、それぞれのテーマ曲の、打楽器と金管楽器のからみのダイナミックなカッコよさに共通項を見いだし、この2曲が同じ作曲家の手になるものであることを確認して満足して以来、その作曲家・佐藤勝は私の中で、特別な存在になった。そして「ぴあ」片手に名画座めぐりをしていた大学時代に、その多彩かつ多作な才能に心底、感服した。『暗黒街の対決』のようなギャングものから、今ではスタンダードとなった『若者たち』の主題歌まで、私の青春は、要するに今はなきさまざまな名画座の暗闇の中で、佐藤勝の曲を聴いていた時期、としてくくれるのではないかとさえ思う。

 私の世代で同じ体験を持つ人は多いはずだ。いや、本書の著者・小林淳自身が、まさに昭和33年生まれ(私と同い年)である。著者はこれまでにも、伊福部昭の映画音楽についての徹底した分析をまとめた労作を刊行している。自分のたどってきた足跡を、こういう映画や音楽の体験を通してつづろうとするのは、高度経済成長期世代のひとつの特徴かもしれない。それだけに佐藤を少し絶賛しすぎている感はあるが、そこらはご愛嬌(あいきょう)として許されるだろう。

 自分の青春を凝縮したような本なら、分厚い方が好ましいのは当然のことだ。そして美しい思い出につけられた値段は、ちょっと高いくらいがちょうどいい。

     ◇

 こばやし・あつし 58年生まれ。映画評論家。著書『伊福部昭の映画音楽』など。

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