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書評

暴力と和解のあいだ [著]尹慧瑛

[掲載]2007年05月27日
[評者]赤井敏夫(神戸学院大教授)

■北アイルランド紛争を分析

 北アイルランド紛争の難解さは、プロテスタント対カトリックという単純な宗教対立に還元できないところにある。これを未解決のまま放置された帝国主義支配の残滓(ざんし)と見ることが、現段階では最も妥当な分析方法だろう。

 本書はユニオニストと呼ばれるプロテスタント集団に注目し、そのエスニック・アイデンティティの組成にメスを入れることで紛争の本質に迫ろうとしている。大英帝国が解体した後も国王の臣民(ブリティッシュサブジェクト)たることを帰属意識の拠(よ)り所とするかれらにとって、既に本国から棄民されたという現状を認めるのは集団の崩壊に直結しかねない。新たなアイデンティティ形成に向けての模索の過程を詳細に追う本書の分析には啓発される指摘が多い。

 本書が対象とするのはプロテスタント、カトリック両派の穏健派政党UUPとSDLPが連合し紛争解決に期待が寄せられていた時代である。両者の合意からわずか9年、連立政権はあえなく倒壊し、武装闘争を繰り広げて反目したDUPとシンフェインの二大強硬派政党が今度は多数を占めながら歩み寄りを図りつつある。うたた隔世の感のある現状である。本書の真価が問われるのはこれからだろう。

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