現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. BOOK
  4. 書評
  5. [評者]橋爪紳也
  6. 記事

伝統建築と日本人の知恵 [著]安井清

[掲載]2007年6月10日

  • [評者]橋爪紳也(大阪市立大教授・建築史、都市文化論)

■木造支える技、継承へ危機感にじむ

 京の匠(たくみ)の自分史である。人柄そのままなのだろう、謙虚で穏やかな語り口のなかに、良質の木造建築を支える伝統の技が失われつつある現状への危機感が、強いメッセージとなって織り込まれている。

 350年続く京都西の岡組を率いる棟梁(とうりょう)の家に生まれた。立命館大学で建築を学んだのち家業を継ぎ、松花堂昭乗ゆかりの草庵(そうあん)や書院、有楽斎の茶室如庵、桂離宮、利休唯一の遺構である待庵の修理や移築工事にも携わった。日本を代表する数寄屋の名品を見事に修復した腕を買われ、ボストンの子ども博物館への京町家移築やメトロポリタン美術館日本ギャラリーの作事など米国の現場も任される。

 棟梁はさまざまな専門家と連携し、自らの職能集団も運営しなければならない。現地の職能集団であるユニオンとの軋轢(あつれき)を乗り越え、「真正な日本の建築」を異国に建立するための努力を積んだ。その足跡も詳細に述べられる。

 建築家として世界を目指す若者にぜひ読んで欲しい。伝統建築の素晴らしさを米に伝えた著者の経験から、異郷において自分たちの文化的な背景を正確に説明する困難さと同時に、日本文化の所産を海外でかたちにすることの意義を学ぶことができるからだ。

 国境を超えて棟梁として活躍するいっぽう、木造建築の素晴らしさを次代に伝える多彩な実践も重ねてきた。熊本県立球磨工業高校の伝統建築コース創設をはじめ教育現場での協力や、解体された古建築部材の再利用をはかるNPO「古材バンクの会」(06年に「古材文化の会」に改名)の活動などが注目される。大工集団「清塾」の実践も例外ではない。京都に遺(のこ)る町家や書院建築の改修現場に地方の大工を集め、先人の見事な仕事に触れる機会とする試みだ。従来は口伝で外部には極秘であった匠のノウハウも、現場で伝授しているようだ。

 職人は単に技術を習得したから職人なのではない。技術の背後にある先人の文化や知恵に学び、次世代に伝える役割をも担う。時代が変わったこと以上に、棟梁を中心とする職人組織の伝統が危機にあるということなのだろう。

    ◇

 やすい・きよし 25年生まれ。家業の工務店を経て、やすいきよし事務所代表取締役。

表紙画像

伝統建築と日本人の知恵

著者:安井 清

出版社:草思社   価格:¥ 2,835

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内

ここから広告です

広告終わり

検索

POWERED BY Amazon.co.jp