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ここから本文エリア 現在位置:asahi.com>BOOK>書評>[評者]野口武彦> 記事 書評 声と顔の中世史―戦さと訴訟の場景より [著]蔵持重裕[掲載]2007年06月10日 ■文書ではなく、口頭語の力 歴史の現場は口頭語の世界である。人々が語り、談じ、笑い、泣き叫ぶ局面が歴史を動かしたはずだ。ところが従来の「文献史学は詞(ことば)の生きた場景を知らない」というのが、本書をつらぬく問題意識である。 日本の行政と訴訟は古くから文書主義が制度化されていたが、民衆の大多数に読み書きができるようになったのは比較的後世のことである。そのギャップを補完するために、また非常事態の訴求として、ナマの「声」がいかに活用されてきたか。著者は古記録・公卿(くぎょう)日記・軍記物語などから数々の発話場面を拾い出して検証する。 発話は表情を伴う。「面なくして詞はない」として歴史の諸場面にクローズアップされた「顔」の実例も丹念に掘り起こされる。 歴史は読解対象としての文字史料だけでなく、行間から聴きとるべき音声に満ちている。日本社会に底流している文書と口頭・高声と囁(ささや)き・匿名と顕名・覆面と対面……といった微妙で巧妙な使い分けの《定理》が割り出される。 国会の大臣答弁で原稿読み上げが多いのも、インターネットの匿名の書き込みも、テレビニュースの顔のモザイクも、同じ根に発した文化事象だとわかる。
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