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書評

父フロイトとその時代 [著]マルティン・フロイト

[掲載]2007年06月10日
[評者]小高賢(歌人)

■一家の日常を細やかに回顧

 精神分析の創始者ジークムント・フロイトについての研究・解説・伝記・回想はそれこそ汗牛充棟というほど出版されている。最近、新訳の『フロイト全集』(岩波書店)も出はじめた。

 天才と呼ばれる人物を父親に持ってしまった子どもはいったいどんな感じで生きたのだろうか。長男の回想録という本書はそこが魅力のポイントである。

 夏になれば、登山、釣り、キノコ狩り、花の収集を子どもとたのしむ。新婚のころの思い出があるので黒バラのような濃い紫の小さい花を好む。

 泳ぎは正統的な平泳ぎだという。いかめしい顔のフロイトはどんな表情で水に親しんだのだろう。

 ウィーンでは自転車も電話も嫌いで、書斎では一度もタイプライターは使ったことがない。食事時間はきっちり守られている。しかし、鶏肉料理が嫌い。

 ユングなどの精神分析関係者の姿は、ほんの少し垣間見られるだけで、むしろフロイト一家の日常生活の細部が、著者自身の自分史と重ねられ、掘り起こされているところがユニークなのである。ときおり点描される反ユダヤの動き。最後の一家のロンドン亡命に至る経過も貴重な証言であろう。

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