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書評

私たちは本当に自然が好きか [著]塚本正司

[掲載]2007年06月17日
[評者]斎藤美奈子(文芸評論家)

■文化から問う「みどり」の百科全書

 「自然好き」を自任する人は多いと思うけれども、はたして私たち日本人が真に「自然好き」かとなると、じつは甚だあやしいのである。

 証拠はいくらだってある。思い出してみてほしい。あなたの住まいの近隣で、近年どれほどの樹木が消えたかを。

 マンション建設のために伐採された屋敷林。駐車場などに転用されて消えた社寺林。落ち葉や日影を理由に強制的に剪定(せんてい)されて、見るも無惨(むざん)な姿にされた街路樹。

 ことは景観の変化にとどまらない。たまの休日に日帰り旅行に出かけ、「やっぱり自然はいいね。リフレッシュするね」などと伸びをしたところで、その実態は〈車で出かけ峠で山を眺めて新鮮な空気を吸い、渓流の釣堀で養殖魚を釣ってアウトドア派と自称〉する程度の私たち。

 だからこそ、本書の著者は問うのである。『私たちは本当に自然が好きか』と。

 本書のキーワードは「みどり」である。原生自然(人の手の及ばない原始の自然)ではなく、ある程度人の手が加わり、人とのかかわりをもった環境自然(身近な樹木、森林、庭、公園、山など)がここでいう「みどり」。経済発展や生活向上のためには「みどり」を排除するのが当然であるかのような都市開発への疑問が論の基調をなす。

 けれども、いやー、びっくり、入り口こそ都市の「みどり」だが、古今東西にわたる自然科学と人文科学の知見をこれでもか! と詰め込んだ本書はさながら「みどり」の百科全書だ。「みどり」を切り口にすると、景観はもちろん歴史や文化や芸術を見る目も変わり、「花咲かじいさん」は自然の摂理に基づくお話、「ヘンゼルとグレーテル」は森の体験を教える童話、というように物語の読み方にさえ新しい発見が加わる。

 植物の生育条件に恵まれ、国土の66%を森林が占める日本では、「みどり」に対する渇望感が逆に薄かったのかもしれない。その価値観を変えるには、環境問題のみならず歴史や文化の面から見た「みどり」の価値に気づくのが先決。その要求に120パーセント応えてくれる本である。

    ◇

 つかもと・まさし 44年生まれ。日本住宅公団などを経て、現在、会社役員。

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